25歳 歯科衛生士
この方は、歯科業界のプロです。
何のごまかしも効きません。この方の勤務先の歯科医師も皆が見ています。
とてもプレッシャーのかかる治療です。
治療前


お口元の写真
お口元が出ていることを気にされています。
この程度なら、気にならない方も多くおられるでしょう。
ご本人は何も言わないですが、赤唇(唇の赤い部分)の厚みがやや厚いよう
に見えます。これは私の主観です。
オトガイの形が少しもっこりした感じがありますねえ。



お口の中の写真
上下歯列ともに叢生(でこぼこのこと)があります。上顎の叢生は中程度で
前歯に集中しています。下顎前歯の叢生は軽度です。上下顎とも、この程度の
叢生を改善するには抜歯は必要ありません。
しかしながら、もし非抜歯で治すと上顎前歯の傾斜が増して前へとびだして
いしまいます。お口元は今以上に突出してしまいます。
しかも、上下顎の奥歯のかみ合わせは、上顎の奥歯が前に来るような不正咬
合になっています。この状態をClass II 咬合と言っています。
この二つの理由で、上顎左右の第一小臼歯を抜歯することにします。下顎の
抜歯はしません。
それから、上下前歯のかみ合わせがとても深くなっています。上顎前歯が下
顎前歯を覆い隠すようになっています。この状態を過蓋咬合(かがいこうごう)
と言っています。この改善は難度が高くなります。
症例の難易度はかなりの難度になります。程度は中程度から高難度になります。


診断
前歯の過蓋咬合と叢生を伴う上顎前突症
治療方針
1上顎前歯のねじれを改善します。まず、上顎第一小臼歯を抜歯してねじれを
取り除きます。この時に歯科矯正用アンカースクリュー(ミニスクリュー、TAD、
矯正用インプラントのこと)を併用して、上顎前歯を圧下(骨にめり込ませる)
を行います。これにより過蓋咬合により改善されてゆきます。
下顎には当面は装置がつきません。まずは上顎のみを治療してゆきます。
2上顎前歯を後退させてゆきます。この時にも歯科矯正用アンカースクリューを
併用します。もし、この方法を併用しないと、上顎奥歯が前に出てくることが
あります。これが過剰に生じると、前歯がへこまないで終わってしまいます。
これを避けるために安全を考えて使っています。
3下顎にようやく装置をつけます。
治療中1

上記の治療方針の1を進めています。
上顎前歯を圧下(骨にめり込ませる)しようとしています。
使用している装置は、セラミック製装置です。今は使用していません。
当院では今はもっと新しいセルフライゲーションタイプのセラミック製装置を
使用しています。
治療中2

上顎前歯の圧下が進みました。
上顎前歯の傾斜がが増しています。これは現時点ではかまいません。
こうなることは計算済みです。
上顎前歯を後退させます。このときにも歯科矯正用インプラントアンカーを使用
しています。この写真にはたまたま写っていません。
治療中3

上記の治療方針3に入ります。
いきなり下あご全部には装置はつけません。ここには院長の玄人気質の工夫が
出ています。
上下のゴムを併用しながら、下顎小臼歯と大臼歯のみを配列しています。
治療中4

ここでようやく下顎前歯6つに装置が着いています。
上下のゴムはまだ使っています。
上顎前歯の後退は進んでいます。
治療後
3年0か月の治療を行いました。


お口元の写真
お口元の突出は改善されました。上唇がへこんだようです。
赤唇がやや薄くなったように見えます。見えませんか?
オトガイの形が綺麗になりましたね。上下前歯がへこみますと、
お口を閉じるときに唇が引っ張られないのでオトガイが本来の
美しい形に成り易いです。



お口の中の写真
上下歯列とも叢生が改善されてきれいに並んでいます。
前歯の咬み合わせは、元よりもうんと浅くなり過蓋咬合は改善されました。
上顎前歯の傾斜もいいですねえ。
上顎の奥歯に白い詰め物があります。これは仮詰のものです。治療中に金
属の詰め物が外れてしまいました。
矯正後に適正なものに作り替える予定です。このように矯正の途中でもカ
リエス治療は可能です。


評価
左はスーパーインポーズといって、治療前と治療後のセフアロというレ
ントゲンを重ね合わせて治療での変化を調べることができるものです。
黒い線は治療前、赤い線は治療後です。
上顎前歯がいかに移動したかがよくわかりますね。
前歯の傾斜度を変化させずに、後退と圧下が行われています。
みっず色の線がありますね。これは治療途中の状態です。これは上記の治
療中1の状態に近いです。

上顎前歯を一旦前に傾斜させて出します。この時に歯根の先は後方へ下が
ります。これを狙ってあえてこういう風にします。
次に前歯を傾斜で後退させます。これが終了すれば、黒線から赤線への変
化となります。治療療期間が.3年0か月とはやや長い目です。
しかし、上顎圧下と難易度の高さから適正な治療結果と考えます。
この症例は2012年の学会に発表しました。自信作です。)実は、従来型の治
療では上顎前歯の圧下というのはほとんどできない内容で、今回の治療結果
は夢のような目標でした。
ところが、矯正用アンカースクリュー(ミニスクリュー、TAD、矯正用イン
プラントのこと)の出現が矯正の治療内容を一変させました。
現在は本当に良い治療ができるようになりました!
皆様もご安心で治療が受けられると思います。